お母さんの味

お母さんの味

私にはいわゆる「お母さんの味」と言う思い出が存在しません。

なぜなら、私の母は私が小学校に上がる前、病気で亡くなってしまったからです。

私の唯一の思い出は、私が泣いている時、「おまじない」と言って母が口の中に放り込んでくれた、飴玉の味だけでした。

大人になってから、あの飴玉はどのメーカーが作っていたのだろうと、色々買って探してみたのですが、同じ味の飴は見つかりませんでした。

看護師になって5年目の時、毎年の検診で異常が見つかりました。

詳しい検査の結果、ステージ4の胃ガンと言う診断が出ました。

職業柄、自分の症状や年齢と照らし合わせ、それがどう言う意味を持ち、これから待ち受ける生活がどう言ったものになるのかは、想像に難くありませんでした。

診断結果を聞いた後は仕事が手につかず、家に帰って独りになったとき、突如として一気に絶望と恐怖に襲われ、私は声を上げて泣きました。

するとその時、優しかった母にもらったあの時の飴玉の味が、口の中いっぱいに広がりました。

不思議な事に、恐怖と絶望感が急になくなり、気持ちがスーッと軽くなりました。

「今でもお母さんが、私を見守ってくれている!」

そう思うと、急にこの病気と戦う覚悟が芽生え、絶対に勝てるという自信も湧き、働きながら約半年の闘病で寛解(かんかい)し、1年後には完全に治癒しました。

その後もあの飴の味を探してはいますが、未だに見つけることができずにいます。

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コメント

  1. 看護師さんですかー。
    大変だけど、頑張ってくださいね。

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