あしあと

あしあと

数年前の冬の始まりの頃の話です。

家の2階からガタガタ、ドンドンと言う物音が聞こえました。

その日、家族は全員外出していて、家の中には私一人のはずでしたので、もしや泥棒でも入ってのではないかと思い、1階の居間でくつろいでいた私は、慌てて2階へ上がってみたのですが、どの部屋にも誰もいませんし、誰かが侵入したような形跡もありません。

その後1階に降りたとき、なんとなく気になって玄関の外に出て周りを見回すと、薄く積もった雪の上に、一人の人間の足跡が、うちの玄関に向かってまっすぐに伸びていたのを見たとき、やはり誰か来たのかもしれないと思いました。

そこでもう一度、家の中をくまなく捜索しましたが、やはりどこにも、誰かが入ってきたような形跡は見当たりませんでした。

それから1週間後。今度は玄関の引き戸が「ガラガラッ!!」と勢いよく開く音がしたので、家族の誰かが帰ってきたか、近所の誰かが訪ねてきたのだと思い、居間から顔だけ出して、廊下の先の玄関の方を覗き見てみたのですが、引き戸は閉まっていて、誰もいません。

不審に思って玄関まで出て、引き戸を開けて外を見てみると、少し積もった雪の上に、玄関を出たところから真っ直ぐに、足跡が付いていました。

私はすぐに、1週間前のことを思い出しました。

ただ、1週間前の足あととは向きが反対で、玄関からまっすぐに去っていくように伸びていました。

警察からの電話で、疎遠だった息子(三男)が事故で亡くなったという知らせを受けたのは、その日の夜のことでした。

後に聞いた話では1週間前、2階で物音がしたまさにその日に事故に会い、危篤状態が続いた1週間後、玄関で引き戸の開く音がした日に亡くなったのだそうです。

近所に買い物にでも行くつもりだったのか、事故当時、身元を証明するものを持っていなかったため、警察や病院の方々には随分とお手を煩わせてしまったようです。

今考えれば、あの玄関の荒っぽい開け方は、三男のものに違いないと思いました。

親より先に逝くなどということは、まったくもって親不孝としか言いようがありませんが、最期に家族に挨拶に来たのかと思うと、息子を不憫に感じざるを得ません。

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