私が小学校5年生の林間学校の時の話です。
私が通っていた小学校では、毎年決まった区立の林間学校用の宿泊施設を使っていたのですが、その年は改装中ということで、近隣の別の旅館を利用することになりました。
予定より少し遅く到着した私たちは、バスから降りると、そのまま旅館のロビーへと向かいました。
その旅館は思っていたよりずっと立派で、それを見た瞬間、みんなテンションが一気に上がりました。
自動ドアを抜けて玄関に入ると、広いロビーには赤い絨毯が敷かれていました。
奥へと向かう通り道、絨毯の真ん中に、直径1メートルくらいの丸い模様がありました。
その部分だけ黒っぽく、濡れているようにも見えたので、なんとなく避けて歩いたのを覚えています。
入浴と夕食の後、大広間でレクリエーションがあり、その日は就寝となりました。
翌朝、朝食のために食堂へ向かう途中、ロビーで何人かの先生が、一人の生徒を囲んで話をしていました。
先生の口調から、どうもその生徒を叱っているようです。
叱られていたのは、同級生のK君でした。
K君には特定の友達がいませんでした。
学校では教室の隅にいつも一人でいて、誰かと一緒に遊んでいるのを見たことがありません。
私と友人は、そのそばを通る時、少しゆっくり歩いて、聞き耳を立てました。
K君は泣きながら、先生に何かを訴えています。
K君:「本当です!夜中にお侍さんが来て、ここまで引きずられて来たんです!大声出したけど、誰も助けてくれなかったんです!」
先生:「そんな言い訳が通用するはずないだろう!」
そんなやりとりが聞こえ、私は友人と顔を見合わせ、懸命に笑いを堪えながら食堂へ向かいました。
その日は1日中、K君の話題で持ちきりでした。
友人の話によると、どうやらK君は、朝起きるとロビーのあの丸い模様の上で、一人で丸まって寝ていたらしいのです。
そしてさらにその翌朝もまた、まるでデジャブのように、K君が先生に囲まれ、叱られていました。
どうやらK君は2日連続で、あの丸い模様の上で寝ていたそうなのです。
そして翌日、林間学校最終日のことです。
その日、K君の姿はどこにもなく、それどころか林間学校が終わった後の学校でも、二度とK君の姿を見ることはありませんでした。
ここからは噂ですが、K君は2日目の夕方、家の人に迎えに来てもらい、その帰りに事故に遭って亡くなってしまったらしいのです。
さらに、私たちが泊まっていた旅館は、江戸時代の打ち首の処刑場跡地だったらしく、あの絨毯の丸い模様は、何度洗っても浮き上がってくるシミで、ちょうどその場所には、切られた首を落とす穴があったのだそうです。
その事はK君がいなくなった事と、何か関係があるのでしょうか。
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