飛んでいった男の子

飛んでいった男の子

思い返せば、これが私の初めての心霊体験だ。

それは確か、小学校4年生くらいだった時の話だ。

学校から帰ってくると、家の中にランドセルを投げ捨てて、一目散に近所の公園に行くのが私の日課だった。

その日は少し寒かったものの天気は良かったので、その公園に行けばいつもなら誰かしら友だちがいるのだが、その日はなぜか人っ子一人いなかった。

それでも、そのうち誰か遊びに来るだろうと思い、しばらく1人で公園の遊具で遊んでいると、少し年上のように見える男の子が、いつの間にかブランコに乗って遊んでいる事に気が付いた。

都内とは言え郊外の小さな公園なので、遊びに来るのはいつも大体決まった顔ぶれなのだが、その男の子は初めて見る顔だ。

しかも、季節はまもなく冬になろうかという肌寒い日だったにもかかわらず、白いランニングシャツに半ズボンという、何とも季節感のない服装だ。

嬉しそうにニコニコとブランコを漕ぐ男の子が気になった私は、何となく横目でその子を観察していると、ブランコの揺れがどんどん大きくなり、ついには1回転してしまうのではないかと思うほど、今まで見たこともないような勢いでブランコを漕ぎ始めた。

「ス・・・ スッゲェ・・・」

私がその妙技に釘付けになっていると、なんとその男の子は、大きく揺れるブランコからポンッと飛び出し、両手両足を大の字に広げたまま空中を飛んで、公園に隣接するアパートの屋根を越え、空の彼方へ飛んで行ってしまったのだ!!

次第に小さくなっていく男の子の姿とその笑い声を、茫然自失で見送っていた私は、ふと我に返ると急に怖くなり、急いで家に帰った。

1メートルが2メートル飛んだように見えた、と言うならともかく、いくら私が出来の悪い小学生だったとは言え、男の子が空に向かって飛んで行ったなどという見間違えは、さすがにするはずがない。

間違いなく私は、それを目撃したのだ!!

ところが、帰ってからそれを母に話しても、母は「また馬鹿なことを言って」と呆れ顔で、取り付く島もない。

翌日、クラスメイトにその話をすれば爆笑され、嘘つき呼ばわりまでされて、私はとても悔しい思いをしたのを覚えている。

その後、同じシチュエーションになることが何度かあったのだが、あの男の子にもう一度会うことは二度となかった。

その後、私は大人になった今でも、実家に帰った折には、もう一度あの子に会えないかと期待して、その公園に足を運んでいる。

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