ご意見箱

ご意見箱

「怪談」ではないかも知れませんが、私が学生の頃、アルバイトしていたスーパーでの話です。

レジカウンターの先に、お客さんが商品を袋詰めするためのテーブルがあるのですが、その端っこの方に「ご意見箱」が置いてありました。

「ご意見・ご質問など、お気軽にどうぞ」と書かれた、上部に穴の空いた手作りの箱の側面に、投稿用紙と先の丸まった鉛筆がくっついていて、お客さんからの意見やクレームを書いて入れてもらおうというシステムです。

月に1回ほど店長がその箱を開けて、本当のクレームは本社の偉い人が来る前に処分するという、まさに画期的なシステムでした。

ある日、休憩室で食事をしている時、そのご意見箱が、テーブルの上に置かれているのに気付きました。

で、私、なんとなく開けてみたんです。ご意見箱。

そしたら、1枚の用紙が投函されていたんです。

判読ができないような、とても弱々しい、ミミズが這ったような書体でした。

よーく見れば、確かに何やら文字らしきものが書かれています。

そのうち目が慣れてきたのか、だんだんいくつかの文字が読めるようになってくると、なんとなく自然に全文が判読できるようになってきたんです。

すると、そのうちの1通に、目が止まりました。

「マックラ ココハ ドコ?」

なんだ。イタズラか・・・

「ここはご意見箱の中よ」

そう思いながら、その投稿用紙をそのまま箱に戻しました。

翌日、ふと気になってご意見箱を覗くと、昨日から1枚増えて2枚の用紙が見えました。

開いてみてみると、

「ワタシハ シンダノ?」

と書いてありました。

筆跡から察するに、おそらく昨日の投書と同一人物のものです。

趣味の悪いイタズラだな、と思ったのですが、何だか気持ちが悪いので、
店長に倣って、2枚とも丸めてゴミ箱に捨ててしまいました。

翌日はシフトが休みだったので、その2日後のことです。

ご意見箱にまた2枚の用紙が入っていました。

恐るおそる開いてみると、1枚目は

「アノ ヒカリハ ナニ?」

と書かれていて、2枚目には

「コワイヨ ダレカ イッショニ イッテ クレマセンカ?」

とありました。

さらにその翌日です。

一連の投書は、きっと誰かの悪趣味なイタズラだろう。そう思いたかったのですが、5枚目の用紙を判読した時、「これはただのイタズラじゃない!」と確信したんです。

「マサヒトサン イッショニ イキマセンカ?」

それを読み解いた瞬間、3ヶ月ほど前に、パートのKさんが亡くなっていたことを思い出しました。
「マサヒトサン」とは、店長の名前です。

私はKさんとはあまりシフトが一緒になることもなく、ほとんど関わりがなかったので、あまり印象にはありませんでしたが、この数日のことを店長に報告すると、みるみる顔色が青ざめて、「これは全部処分するから」と言って、私が捨てた投稿用紙をゴミ箱を漁ってまで拾い上げ、給湯室のシンクで5枚とも燃やしてしまいました。

今考えれば、ただの紙切れなんだから、ゴミ箱にでも捨てればいいものを、わざわざ燃やすなんて、不自然極まりないですよね。

もしかして、Kさんと店長との間で、何かあったのでは?と勘繰ってしまいましたが、今となっては真相は不明です。

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