この1年くらいの間、体調が悪く、仕事もミスばかりで、どうもツイていなかった。
その上、よく足がもつれて、家でも会社でもよく転ぶのだ。
体調が悪いせいなのか・・・ それとも何か、よくない病気なのか・・・
心配にはなったものの、病院に行く時間もなく、なんとなくそのまま過ごしていた。
ある日、会社の帰りに立ち寄った飲み屋の入るビルの廊下で、「霊感相談・占い」と書かれた立て看板が目に止まった。
カーテンで仕切られた畳1畳ほどの小さなスペースには、年配の女性がポツンと座っていて、小さなテーブルの上に置かれた怪しげな石を、大切そうに撫でているのが見えた。
その時、この1年の出来事を振り返ると、単純に病気だとか、たまたま不運が続いただけとは思えなかった私は、同僚の冷やかしを背中で受けながら、占い師の前に置かれたパイプ椅子に座った。
料金は3,000円。
さっきまで飲んでいた居酒屋の会計と、ほぼ同じ金額だ。
名前や生年月日など、個人情報を聞かれるのではないかと言う心配をよそに、占い師は目の前に置かれた怪しげな石をさすりながら、何やらブツブツと呪文の様なものを唱え始めた。
私は酔っていただけかも知れない。
急に居心地の悪さを感じ、もうやめて帰ろうかと思った時、占い師がおもむろに私に話し始めた。
彼女の話によると、私の両足には長い髪の毛が何重にも、グルグル巻きに絡み付いているらしく、最近よく転ぶのではないかと尋ねられた私は、その占い師への信頼感が一気に高まった。
すると次に、その占い師はおもむろに立ち上がり、私が引きずって歩いている長い髪の毛の先が、どこにつながっているかを確認すると言い、カーテンで仕切られた小屋から出て、右手を床付近にかざしながら、ゆっくりと廊下を歩き始めた。
私はどうしたら良いのかわからず、ゆらゆらと歩いて行く占い師の後ろ姿を、漫然と眺めていた。
すると占い師は、私が先ほどまで同僚と呑んでいた隣の居酒屋に入って行ったかと思うと、突然「バタバタバタッ!!」と慌てた様子で戻って来た。
ゼイゼイと息を切らせながら彼女が言うには、長い髪の毛の先をたどって行くと、居酒屋の入り口付近に転がっている、女の生首につながっていたそうだ。
床に転がるその生首にギロっと睨まれた彼女は、怖くなって慌てて戻って来たらしい。
どうやら私はこの1年ほどの間、まるで犬の散歩のように、女の生首をズルズルと引きずって歩いていたと言うことらしいのだ。
その後、占い師から渡された神社の住所を頼りにお祓いを受けに行くと、その日を境に今まで悩んでいたことがまるでウソのように、綺麗さっぱりなくなった。
生首が誰だったのかは、いまだに分からない。
後日、お礼を言うためにあの占い師を尋ねてみたが、そこにはもう彼女の姿はなかった。
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